行政書士・FPが解説|生前贈与と相続税計算の基本知識

「生前贈与をしているから、相続税はもう心配ない」と考えている方はいませんか?

しかし実際には、生前贈与をした財産でも、相続税の計算に含まれるケースがあります。特に近年は税制改正によって「持ち戻し」の対象期間が拡大され、以前よりも生前贈与と相続税の関係が重要視されるようになりました。

北空知エリアでも、高齢化や不動産・農地の承継問題を背景に、相続や生前贈与に関心がある方も多いと思います。子や孫に早めに財産を渡したつもりでも、方法によっては相続税計算に影響し、「思っていた結果と違った」というケースも考えられます。

また、生前贈与は単に税金の問題だけではなく、家族間の公平性や将来の相続トラブルにも関わる重要なテーマです。そのため、「とりあえず贈与しておけば安心」と考えるのではなく、制度の仕組みを正しく理解したうえで進めることが大切です。

この記事では、行政書士・FPの視点から、生前贈与が相続税計算にどのような影響を与えるのかをわかりやすく解説します。

生前贈与とは?相続前の財産移転

生前贈与とは、財産を持っている人(贈与者)が、生きているうちに別の人(受贈者)へ無償で財産を渡す契約のことをいいます。

例えば、

  • 現金や預貯金
  • 土地や建物などの不動産
  • 株式や投資信託
  • 自動車
  • 貴金属 など

が生前贈与の対象になります。

生前贈与を検討する背景には、高齢化の進行や相続手続きへの不安、将来的な家族間トラブルを避けたいという思いがあります。「農地や不動産を生前のうちに整理しておきたい」「将来の相続手続きを少しでも円滑にしたい」といった理由から、生前贈与を検討するケースが多く見られます。

また、生前贈与には原則として贈与税が関わります。一般的によく利用される「暦年贈与」では、1年間(1月1日〜12月31日)にもらった財産の合計が110万円を超えると、超えた部分に贈与税が発生します。

相続開始前○年以内の贈与は相続財産に加算される

生前贈与を行った場合でも、すべてが相続税と無関係になるわけではありません。一定期間内に行われた贈与については、相続税の計算上「相続財産に持ち戻して計算する」というルールがあります。

これは、「亡くなる直前に財産を贈与して相続税を減らすこと」を防ぐための制度です。

これまでの制度では、相続開始前3年以内に相続人へ行った贈与が持ち戻しの対象とされていました。しかし、令和5年度税制改正により、この対象期間が段階的に延長され、最終的には7年以内の贈与まで加算対象となります。

つまり、例えば親が子どもへ毎年贈与をしていた場合でも、亡くなる前7年以内の贈与については、相続税計算上は「なかったこと」にはならず、相続財産へ加算される可能性があるということです。

ただし、すべての贈与がそのまま加算されるわけではありません。制度改正後は、一部について100万円までの控除が設けられるなど、細かなルールも存在します。

また、持ち戻しの対象になるのは、「相続または遺贈によって財産を取得した人」への贈与です。そのため、「誰に贈与したのか」も重要なポイントになります。

No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)|国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4161.htm?utm_source=chatgpt.com

持ち戻し計算の具体例をわかりやすく解説

「持ち戻し」と聞いても、実際にどのように相続税計算へ影響するのかイメージしにくい方も多いのではないでしょうか。ここでは、簡単な事例で考えてみます。

例えば、父親が亡くなった時点での財産が5,000万円あったとします。
さらに、亡くなる前に長男へ次のような生前贈与を行っていました。

  • 5年前に100万円
  • 3年前に150万円
  • 1年前に200万円

この場合、相続税の計算では、一定期間内の贈与分を相続財産へ加算して考える必要があります。
持ち戻し対象期間内の贈与が合計450万円で、100万円が控除される場合だとすると、相続税計算上の財産額は、

5,000万円 + 450万円 - 100万円 = 5,350万円

として計算されます。

つまり、実際にはすでに子どもへ渡している財産であっても、相続税計算では「相続財産の一部」として扱われるということです。

この点を誤解していると、

「生前に渡したから相続税は関係ないと思っていた」
「毎年少しずつ贈与していたので安心していた」

というケースでも、後から想定外の相続税負担が発生する可能性があります。

また、持ち戻し計算は単純に財産を足し算するだけではありません。

  • 誰が贈与を受けたのか
  • いつ贈与されたのか
  • 暦年贈与なのか
  • 相続時精算課税制度を利用しているのか

によって扱いが異なります。

生前贈与を検討している場合は、相続時の計算方法まで確認しておくことが重要です。

生前贈与は「相続税」と「遺産分割」で違う

生前贈与については、「相続税」と「遺産分割」で、持ち戻しの考え方が異なる点に注意が必要です。

相続税の計算では、持ち戻しの対象期間がおおよそ決まっています。現在は税制改正により、相続開始前7年以内の贈与が段階的に加算対象となります。

つまり、相続税では、「いつ行われた贈与なのか」が重要になります。

一方で、遺産分割の場面では、民法上の「特別受益」という考え方が問題になることがあります。
これは、生前贈与によって特定の相続人だけが大きな利益を受けていた場合、その分を考慮して相続人間の公平を図る制度です。

例えば、

  • 住宅購入資金を援助してもらった
  • 事業資金を出してもらった
  • 多額の現金贈与を受けていた

といったケースでは、「すでに財産を多く受け取っている」と判断される可能性があります。

そして、この特別受益には、相続税のような「○年以内」という明確な期間制限がありません。
そのため、かなり昔の贈与であっても、個別の事情によっては、「実質的には生前に財産を受け取っていたのではないか」として、遺産分割の際に問題になるケースがあります。

つまり、

  • 相続税 : 一定期間内の贈与を加算して税額を計算する
  • 遺産分割 : かなり前の贈与でも公平性の観点から考慮される可能性がある

という違いがあります。

この点を混同してしまうと、

「節税対策のことしか考えていなかった」
「遺産分割で揉めてしまった」

ということも考えられます。

そのため、生前贈与を考える際は、「税金だけ」の視点ではなく、将来の遺産分割まで含めて整理しておくことが大切です。

まとめ|生前贈与は「相続税」と「遺産分割」の両方を考えることが大切

生前贈与は、単に財産を早めに渡すだけではなく、将来の相続税や遺産分割にも大きく関わる制度です。特に注意したいのは、「相続税」と「法定相続分・遺産分割」では、生前贈与の考え方が異なる点です。

「税金上は問題がない」
「かなり昔の贈与だから大丈夫」

と思っていても、実際の相続では家族間トラブルにつながるケースもあるということです。
そのため、生前贈与を検討する際は、

  • どの財産を
  • 誰に
  • いつ
  • どの方法で渡すのか

を整理し、「相続税」と「遺産分割」の両方の視点から考えることが重要です。

制度改正も続いているため、自己判断だけで進めず、不安がある場合は専門家へ早めに相談することをおすすめします。早めに状況を整理しておくことで、将来の不安解消やトラブル予防につながるはずです。

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