【保存版⑦】定款作成の最終チェック!「計算」と「附則」で失敗しないための実務解説
「定款はひな形を使えば問題ない」―そう考えていませんか?
確かに基本的な形は整いますが、“最後の詰め”である「計算」と「附則」の設計によって、その後の会社運営のしやすさが大きく変わります。
たとえば、事業年度の設定ひとつで決算業務の負担や資金繰りに影響が出るかもしれません。また、附則についても「設立時だけのもの」と軽視されがちですが、記載内容に不備があれば設立手続きそのものに支障が出るリスクもあります。
本記事では、定款作成の最終チェックとして見落とされがちな「第5章 計算」と「第6章 附則」にフォーカスし、会社法との関係や実務上の注意点をわかりやすく解説していきます。
本記事では、株式譲渡制限会社(いわゆる非公開会社)のうち、小規模な会社を前提に、実務上よく採用される定款設計を中心に解説しています。公開会社や取締役会設置会社では取扱いが異なる場合がありますのでご留意ください。
本記事で解説する記載例
定款の記載例
第5章 計 算
(事業年度)
第29条 当会社の事業年度は、毎年4月1日から翌年3月31日までとする。(剰余金の配当)
第30条 当会社は、株主総会の決議によって、毎事業年度末日現在の最終の株主名簿に記載又は記録された株主、登録株式質権者に対して剰余金の配当を行う。(剰余金の配当の除斥期間等)
第31条 剰余金の配当には利息を付さず、その支払の提供の日から満3年を経過してもなお受領されないときは、当会社はその支払義務を免れる。第6章 附 則
(設立に際して発行する株式)
第33条 当会社の設立に際して発行する株式は100株とし、その発行価額は1株につき金1万円とする。(設立に際して出資される財産の価額等)
第34条 当会社の設立に際して出資される財産の価額は、金100万円とする。
2 当会社の成立後の資本金の額は、金100万円とする。(最初の事業年度)
第35条 当会社の最初の事業年度は、当会社成立の日から令和9年3月31日までとする。(設立時取締役)
第36条 当会社の設立時取締役は、次のとおりとする。
設立時取締役 □□ □□□(設立時代表取締役)
第37条 当会社の設立時代表取締役は、次のとおりとする。
北海道△△△市▲▲▲▲
設立時代表取締役 □□ □□□(発起人の氏名及び住所)
第38条 当会社の発起人の氏名及び住所、割当を受ける設立時発行株式数及び設立時発行株式と引換えに払い込む金銭の額は、次のとおりである。
北海道△△△市▲▲▲▲
発起人 □□ □□□ 100株 金100万円(定款に定めのない事項)
第39条 本定款に定めのない事項については、すべて会社法その他の法令の定めるところによる。以上、株式会社○○○○○設立のため、発起人□□ □□□ の定款作成代理人■■ ■■■ は電磁的記録である本定款を作成し、これに電子署名をする。
令和8年6月1日
発起人 □□ □□□上記発起人の定款作成代理人
北海道△△△市◇◇◇◇
■■ ■■■
なぜ「計算」と「附則」が会社運営を左右するのか
「計算」と「附則」は、定款の中でも“形式的に書けばよい部分”と思われがちですが、実際には会社運営の実務に直結する重要なパートです。
まず「計算」に関する条項は、事業年度や剰余金配当といった、会社のお金の流れや利益処分のルールを定めるものです。これらは会社法の規定をベースにしつつも、どのように設計するかによって、決算業務の負担や株主対応の煩雑さが大きく変わります。
一方、「附則」は設立時に関する事項を定める部分であり、設立後はあまり意識されないことが多いですが、資本金や発起人、設立時役員などの記載は、いずれも会社法上の絶対的記載事項を含む極めて重要な項目です。ここに不備があれば、そもそも会社設立手続きがスムーズに進まないというリスクがあります。
このように、「計算」と「附則」は単なる形式ではなく、会社のスタートとその後の運営を支える“実務設計”そのものだといえます。
①計算
まず「事業年度」については、決算業務の負担や資金繰りに直結します。特に繁忙期と決算期が重なると、経理・税務の処理が逼迫しやすくなるため、事業の実態に合わせて設計することが重要です。この点は税務面の影響も大きいため、税理士と連携して決めるのが現実的です。
会社法435条
(計算書類等の作成及び保存)
第四百三十五条 株式会社は、法務省令で定めるところにより、その成立の日における貸借対照表を作成しなければならない。
2 株式会社は、法務省令で定めるところにより、各事業年度に係る計算書類(貸借対照表、損益計算書その他株式会社の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるものをいう。以下この章において同じ。)及び事業報告並びにこれらの附属明細書を作成しなければならない。
「剰余金の配当」は、会社法の原則どおり株主総会決議に委ねる形が一般的です。
会社法453~454条
(株主に対する剰余金の配当)
第四百五十三条 株式会社は、その株主(当該株式会社を除く。)に対し、剰余金の配当をすることができる。
(剰余金の配当に関する事項の決定)
第四百五十四条 株式会社は、前条の規定による剰余金の配当をしようとするときは、その都度、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 配当財産の種類(当該株式会社の株式等を除く。)及び帳簿価額の総額
二 株主に対する配当財産の割当てに関する事項
三 当該剰余金の配当がその効力を生ずる日
そして実務上見落とされがちなのが「剰余金配当の除斥期間」です。会社法に明文規定はありませんが、何も定めない場合、民法上の消滅時効(10年)が問題になります。つまり、未受領の配当金を長期間管理し続ける必要が生じ、事務コストが増大します。
そのため実務では、この期間を「3年」とする条項を設け、管理負担を軽減する設計が一般的です。公序良俗に反しない限り短縮は有効と解されており、合理的なリスクコントロールといえます。
民法166条
(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
②設立時発行株式/出資財産等
「設立に際して発行する株式」ですが、ここでは発行株式数と1株あたりの金額を定めます。この設定は、後の増資や株式譲渡のしやすさにも関わるため、極端な金額設定は避け、実務的に扱いやすい水準にしておくことが重要です。
あわせて、「設立に際して出資される財産の価額等」を決めます。これは、いわゆる資本金に直結する部分であり、会社法上の絶対的記載事項です。ここで定めた金額が、そのまま会社のスタート時の資金力を示すことになります。実質的には運転資金として使われるため、事業計画やキャッシュフローを踏まえて現実的に決定する必要があります。
会社法27条、445条
(定款の記載又は記録事項)
第二十七条 株式会社の定款には、次に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。
一 目的
二 商号
三 本店の所在地
四 設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
五 発起人の氏名又は名称及び住所(資本金の額及び準備金の額)
第四百四十五条 株式会社の資本金の額は、この法律に別段の定めがある場合を除き、設立又は株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とする。
③最初の事業年度
「最初の事業年度」は、設立初年度の決算期間を定める条項です。通常の事業年度と連動して設計しますが、設立日によっては第1期が極端に短くなったり長くなったりするため注意が必要です。かつては消費税の免税期間を意識して長めに設定するケースも見られましたが、現在はインボイス制度の影響もあり、そのメリットは限定的です。
④設立時取締役等
これらの条項は、会社設立時における初期メンバーを確定させるものであり、職務を開始する役員を定めるものです。金融機関との取引や契約締結において、誰がその権限を持つのかを明確にしておく必要があります。「誰が実質的に経営を担うのか」「対外的な責任を負うのは誰か」という観点から設計することが重要です。
会社法38条
(設立時役員等の選任)
第三十八条 発起人は、出資の履行が完了した後、遅滞なく、設立時取締役(株式会社の設立に際して取締役となる者をいう。以下同じ。)を選任しなければならない。
⑤発起人
この「発起人の氏名及び住所」は、会社法上の絶対的記載事項であり、必ず定款に記載しなければならない項目です。
発起人とは、会社設立に際して出資を行い、定款を作成する主体となる人物のことを指します。つまり、会社の“出発点”を作る当事者であり、誰がその役割を担うのかを明確にする意味でも、この条項は極めて重要です。
さらに、発起人は設立時の責任も負う立場にあります。設立手続に不備があった場合の責任関係なども踏まえると、単に名前を並べるのではなく、実態に即した構成にしておくことが重要です。
会社法27条、32条、56条
(定款の記載又は記録事項)
第二十七条 株式会社の定款には、次に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。
一 目的
二 商号
三 本店の所在地
四 設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
五 発起人の氏名又は名称及び住所(設立時発行株式に関する事項の決定)
第三十二条 発起人は、株式会社の設立に際して次に掲げる事項(定款に定めがある事項を除く。)を定めようとするときは、その全員の同意を得なければならない。
一 発起人が割当てを受ける設立時発行株式の数
二 前号の設立時発行株式と引換えに払い込む金銭の額
三 成立後の株式会社の資本金及び資本準備金の額に関する事項(株式会社不成立の場合の責任)
第五十六条 株式会社が成立しなかったときは、発起人は、連帯して、株式会社の設立に関してした行為についてその責任を負い、株式会社の設立に関して支出した費用を負担する。
【定款は“作って終わり”ではない】実務で活きる設計が重要
ここまで、定款の各条文について「計算」と「附則」を中心に解説してきました。定款は単なる設立時の書類ではなく、会社運営のルールを定める“設計図”ともいえる存在です。
特に今回取り上げた条項は、会社のスタート時点の資本構成やガバナンス、経理、税務を決定づける重要な要素です。これらをひな形どおりに形式的に作成することも可能ですが、実務を見据えずに作成してしまうと、後から「運用しづらい」「管理コストがかかる」といった問題が生じるケースも少なくありません。
もし、「自社に合った定款の作り方が分からない」「ひな形で問題ないのか不安」といった場合には、行政書士などの専門家に相談することで、将来のリスクや手間を未然に防ぐことができます。定款は一度作ると長く使うものだからこそ、最初の設計にこだわることをおすすめします。
行政書士あおやま事務所は、
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