行政手続き約7万5,000件をAIで分析?行政DXが変える「手続きの未来」④
デジタル庁が、興味深い取り組みをリリースしました。
今回公表されたのは、国の行政手続等に関する約75,000件の調査データを、AIとの対話を通じて自然な言葉で分析できるようにする技術検証です。
具体的に何ができるようになるのか。私たちにとって、どこが便利になっていくのか。そして、行政手続きの未来はどうなるのかを、行政書士の視点から考えていきます。
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【第4回】行政DXが進む時代に、利用者と士業に求められること
1. 行政手続きのデジタル化は避けられない
行政手続きのデジタル化は、今もなお着々と進んでいます。
オンラインで申請できる手続きは増えていますし、行政が保有するデータのデジタル化や、システム同士の連携も進められています。そして、この流れはこれからも続いていくでしょう。今後はさらにデジタル化が進み、AIの活用も含めて、行政手続きのあり方そのものが少しずつ、そして大きく、変わっていくことになるかもしれません。
その背景は様々ありますが、行政手続きそのものを効率化していく必要性が一つの理由だと思います。
行政が扱う手続きは、決して少なくありません。しかも、既存の手続きだけを処理していればいいわけでもありません。新しい制度ができれば、それに対応する行政手続きが必要になります。社会の中でこれまで想定されていなかった新しい事例が生まれれば、それに行政としてどう対応するのかを考えなければなりません。
つまり、社会が変化していく限り、行政が対応しなければならない制度や手続きも増えていきます。
その一方で、行政の現場で働く人員が無限に増えていくわけではありません。むしろ、これからは人手不足の問題もより大きくなっていくでしょう。増えていく可能性のある業務を、限られた人員で処理していかなければならない。
そう考えれば、これまで人が行っていた作業の中から、デジタル技術によって効率化できるものを見つけ、できるだけ効率的に処理していく必要が出てきます。
また、国と自治体、あるいは複数の行政機関や関係する事業者など、さまざまな主体の間で情報をやり取りしなければならない場面もあります。そのとき、それぞれが別々の仕組みで情報を管理していれば、同じような情報を何度も入力したり、別のシステムに移し替えたりする作業が発生します。
それぞれの主体が持っている情報を、必要な範囲で効率的にやり取りできるようにする。こうしたことも、行政手続きのデジタル化を進める大きな理由になっているはずです。
今回のデジタル庁の取り組みも、行政が持つ大量の情報をAIによって扱いやすくするという意味で、こうした大きな流れの中にあるものだと考えられます。
こうした必要性がある以上、行政手続きのデジタル化は、これからも進んでいくと考えるのが自然です。そうなると、利用者側としても、このデジタル化の流れを完全に避け続けることは難しくなります。
行政サービスを提供する側が、利用者にとって分かりやすく、使いやすい仕組みをつくっていくことは大前提です。そのうえで、行政手続きそのものがデジタル化していく以上、利用者側も、ある程度はその変化を受け入れていく必要があるはずです。
2. 利用者側にも、ある程度の「リテラシー」が必要になる
行政手続きのデジタル化が進んでいくのであれば、利用者側にも、ある程度の対応が求められるようになります。
行政手続きに必要な情報をデジタルで受け取り、それを確認し、必要に応じて自分で操作する。そして、AIなどの新しい道具も、使える範囲で使ってみる。まずは、その程度の「慣れ」が求められるようになる、ということだと思います。
これは、利用者にとって新たな負担になる部分もあります。しかし、行政手続きだけが特別にデジタル化しているわけではありません。
買い物をする。銀行を利用する。交通機関を利用する。宅配便を受け取る。日常生活のさまざまな場面で、デジタルを使うことが当たり前になっています。行政手続きについても、その流れから完全に切り離して考えることは難しいです。
だからこそ、「自分はデジタルが苦手だから、できるだけ関わりたくない」というだけでは、これから少しずつ不便になっていく可能性があります。
もちろん、誰もが同じ速度でデジタルに慣れる必要はありません。それぞれの事情もありますし、すべての人に同じ対応を求めることが適切だとも思いません。ただ、行政手続きがデジタル化していく以上、利用者側も、その変化に対してある程度は慣れていく必要はあります。
そして、AIやデジタルの仕組みを「難しいもの」として遠ざけるのではなく、自分にとって使える道具として少しずつ取り入れていく。これからは、そうした姿勢も必要になってくるのではないでしょうか。
3. 行政手続きのデジタル化で、専門家に求められる役割とは
行政手続きのデジタル化が進めば、これまで専門家に依頼していた手続きの中にも、自分で対応できるものが増えていくでしょう。手続きの方法が分かりやすくなり、オンラインで簡単に申請できるようになれば、自分で手続きを完了できるようになります。
一方で、すべての行政手続きが、同じように簡単になるわけではありません。そして、すべての人が、自分で手続きをすることができるわけでもありません。
そう考えると、これからの士業や専門家の役割も変わってきます。
高度で複雑な案件、前例の少ないレアケースへの対応
AIは、大量の情報を処理したり、過去の事例や決められたルールをもとに情報を整理したりすることを得意としています。そのため、手続きのルールが明確で、過去にも同じような事例が数多く存在するものであれば、AIによって対応できる範囲は、これからさらに広がっていくでしょう。
一方で、過去にほとんど例がないようなケースでは、話が変わってきます。複雑で前例がない。レアケースで十分なデータがない。制度が始まったばかりで新しい。
こうした案件になるほど、単純に「情報を調べれば答えが出る」というわけにはいかなくなります。もちろん、AIがこうした領域にも対応できるようになる可能性はあります。しかし、少なくとも、前例やデータが豊富にある案件と、ほとんど前例がない案件とでは、AIが情報をもとに処理できる条件そのものが違います。
だからこそ、これからも、高度な知識や判断を必要とする案件、複雑な事情を整理しなければならない案件、そしてレアケースへの対応には、専門家の役割が残っていくのではないでしょうか。
むしろ、一般的なケースをAIが処理できるようになればなるほど、専門家には、より個別性の高い案件や判断の難しい案件への対応が求められるようになるのだと思います。
利用者側の事情によって、自分では手続きができない人への対応
もう一つ、専門家に求められる役割として考えておきたいのが、手続きそのものの難しさとは別に、利用者側の事情によって、自分では手続きを進めることが難しい人への対応です。
行政手続きがどれだけ分かりやすくなり、AIを使って必要な情報を簡単に確認できるようになったとしても、それだけですべての人が自分で手続きをできるようになるわけではありません。
例えば、仕事や家のことなどで、手続きのための時間や機会を確保することが難しい人もいます。デジタル機器の操作そのものが難しい人もいるでしょう。年齢や心身の状態などによって、オンラインでの手続きに対応することが難しくなる場合もあります。
行政手続き側の問題ではなく、利用者側に何らかの事情があって、自分では対応できない。そういう場面は、これからもなくならないでしょう。
デジタル化によって、多くの人が自分で手続きを進められるようになることは、大きなメリットです。しかし、その仕組みを使える人だけを前提にしてしまえば、別のところで取り残される人が出てきます。
その受け皿の一つとして、士業などの専門家が果たす役割があるはずです。


