住宅ローンの固定金利vs変動金利|心理学で考える最適解①

本記事は、意思決定理論の考え方を住宅ローンの金利タイプ選びに当てはめ、抽象的な理論を具体的な場面にどのように活用できるかを考察することを目的としています。そのため、特定の金利タイプ(固定金利・変動金利)や金融商品を推奨するものではありません。また、本記事で紹介する考え方は、個々の状況における最適な選択や、将来の金利動向・返済結果を保証するものではありません。実際に住宅ローンを選択する際は、ご自身の収入や家計状況、ライフプラン、リスク許容度などを踏まえ、総合的に判断してください。

1.住宅ローンの固定金利と変動金利、どちらを選ぶべきか?

住宅ローンを借りるとき、多くの人が悩むのが「固定金利と変動金利、どちらを選ぶべきか」という問題です。

固定金利を選べば、契約時に決められた金利を基本的に維持できます。一方、変動金利を選べば、金利情勢に応じて返済負担が変わる可能性があります。

では、どちらを選ぶのが合理的なのでしょうか。この問題に簡単な正解を出すことはできません。その理由は、将来の金利がどうなるのか、誰にも正確には分からないからです。

将来の金利を正確に予測することはできない

「今後、金利は大幅に上昇する」と確実に分かっているのであれば、固定金利を選ぶことで将来の金利上昇による返済負担の増加を避けられます。反対に、「今後、金利は下がり続ける」と分かっているのであれば、変動金利を選ぶことで、より低い金利の恩恵を受けられる可能性があります。

一方で、「今後は金利が上がる」と予測できたとしても、それだけでは固定金利と変動金利のどちらが得なのかを正確に判断することはできません。なぜなら、住宅ローンで実際に負担する利息の額は、金利が何%なのかだけでなく、その金利がいつ適用されるのか、そのとき住宅ローンの残高がいくら残っているのかによって変わるからです。

たとえば、同じ1%の金利上昇でも、借入直後に起こる場合と、返済がかなり進んで残高が少なくなってから起こる場合では、負担する利息の額は大きく変わります。

  • いつ上がるのか
  • どのくらい上がるのか
  • その水準がどのくらい続くのか

によって、最終的な返済負担は変わってきます。

つまり、固定金利と変動金利のどちらが得なのかを本当に計算しようとするなら、単純に「金利が上がるか、下がるか」だけでは足りません。いつ、どのくらい金利が変化し、その時点で住宅ローンの残高がいくら残っているのか。そこまで含めて将来を正確に予測できなければ、「固定金利の方が得」「変動金利の方が得」と断定することはできないのです。

そして、現実には、そこまで先の金利の動きを正確に予測することはできません。だからこそ、住宅ローンの金利選択は、単純な損得計算だけでは答えを出しえない問題なのです。

金利の損得だけでは決められない理由

さまざまな金利上昇・低下のシナリオを想定して、返済額をシミュレーションすることはできます。ただし、それはあくまでシミュレーションです。

実際にどのシナリオが起こるのか、その確率がどの程度なのかまで正確に分からない以上、最終的に「こちらの方が絶対に得だ」と合理的な計算だけで決めることには限界があります。

そこで重要になってくるのが、「自分はその結果をどう感じるのか」という心理的な問題です。

たとえば、変動金利を選んで、結果的に金利が下がれば、「低い金利で借りられてよかった」と感じるでしょう。一方で、金利が上昇して毎月の返済額が増えれば、「こんなに返済額が増えるとは思わなかった」「固定金利にしておけばよかった」と感じるかもしれません。

反対に、固定金利を選んだ場合、金利が下がれば「変動金利ならもっと低い金利で借りられたのに」と感じることがあります。しかし、金利が上昇した場合には、「金利は上がったけれど、自分の返済額は変わらなくて良かった」と感じることもできます。

「金利が変動する」という出来事でも、それを自分にとって「得」と感じるのか、「損」と感じるのかは、選んだ金利タイプや、その後の状況によって変わってきます。

ここで考えたいのが、「人は不確実な状況で、利益と損失をどのように評価するのか」という問題です。これは単純な金額の計算だけではなく、人間の意思決定そのものに関わる問題です。

そして、このような人間の意思決定の特徴を説明する理論が、心理学にはいくつか存在します。

2.プロスペクト理論とは?人は利益よりも損失を強く意識する

人は将来が分からない状況で、どのように選択をしているのでしょうか。その人間の意思決定の特徴を説明する代表的な理論の一つが、プロスペクト理論です。

プロスペクト理論における利益と損失の考え方

プロスペクト理論とは、人が不確実な状況で意思決定をするとき、結果を客観的な金額や期待値だけで評価するのではなく、「ある基準となる状態から、どれだけ良くなったのか、あるいは悪くなったのか」という変化によって評価する、という考え方です。

つまり、結果そのものよりも、「自分の現在の状態と比べて、得をしたのか、損をしたのか」という相対的な変化が、意思決定に大きく影響します。

そして、プロスペクト理論にはもう一つ重要な特徴があります。それが、利益と損失に対する人間の感じ方は対称ではない、ということです。

経済学的に考えれば、ある金額の利益と同じ金額の損失は、正反対の結果として同じ大きさで扱うことができます。しかし、人間の心理は必ずしもそうではありません。

利益については、利益が大きくなるほど嬉しさは増えるものの、その増え方は徐々に小さくなっていきます。一方、損失についても、損失が大きくなるほど心理的な負担は増えますが、こちらも単純に金額に比例するわけではありません。

このように、プロスペクト理論では、人間が利益と損失を同じ尺度で直線的に評価するのではなく、その評価の重みは逓減すると言えます。

特に重要なのが、損失に対する心理的な反応です。人は一般に、同程度の利益を得ることよりも、同程度の損失を避けることを強く意識する傾向があります。これを「損失回避」と呼びます。

このため、人間の意思決定を考えるときには、「どちらがより多く得をするのか」だけではなく、「どちらの選択が、どのような損失をもたらす可能性があるのか」という視点も重要になります。

人は利益を得る場面ではリスクを避け、損失を被る場面ではリスクを取りやすい

次のような2つの選択肢があるとします。

A:何もしなくても5,000円がもらえる
B:50%の確率で10,000円がもらえるが、50%の確率で何ももらえない

AとBは、どちらも期待値は5,000円です。それでも、この2つから自由に選べるとしたら、多くの人は「確実に5,000円がもらえるA」を選ぶ傾向があります。

つまり、利益を得られる場面では、多少大きな利益を得られる可能性があったとしても、「何ももらえない」という結果を避けて、確実に利益を得ることを選びやすいのです。

では、今度は損失の場面を考えてみましょう。

C:何もしなくても5,000円を支払う
D:50%の確率で10,000円を支払うが、50%の確率で支払いが0円になる

こちらも、期待値だけを考えれば、CとDは同じ5,000円の支払いです。ところが、この場合には、AとBとは違った選択をする人が多くなります。

「確実に5,000円を支払うくらいなら、50%の確率で10,000円を支払うことになっても、50%の確率で支払いを免れる可能性に賭けてみよう」と考えるわけです。ここで注目したいのが、「10,000円を支払う可能性」ではなく、「支払いを0円にできる可能性」に意識が向いている点です。

期待値だけを見れば、AとB、CとDはそれぞれ同じです。しかし、人間の選択は期待値だけでは決まりません。

人は損失が発生する場面では、「どれだけ得をする可能性があるか」だけではなく、「その損失を回避できる可能性がどれくらいあるのか」を強く意識して意思決定することがあります。

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